【既刊】運命は花の香り大学生×プロ編【小説】 - 3/3

合コンクライシス

嵌められた、迂闊だった。どうして俺はこう、いつも騙されるのだろう。
……と、頭を抱えながら、御幸にメッセージを送る。
プロ入り二年目、シーズン初めに色々あって登録抹消され、しばらく俺の部屋に転がり込んで、そこから一軍復帰を果たしてからスタメン出場の回数が格段に増え、今は少し前に負傷した正捕手の代わりにほとんどの試合でマスクを被っている、俺の愛おしい恋人だ。
大学の野球部のやつの奢りで飯に来たら、やけに洒落た店で、同じ人数の女の子が後から合流した。合コンだった、出来る限り早く抜け出すけど俺が迂闊だった、ごめん、とメッセージを送ると、すぐに既読になった。なんか浮気の言い訳みたいだな、と思っているとそっくりそのままの返信がくる。
大丈夫、倉持はそんな奴じゃないって知ってる、とすぐに続けて返ってきてホッと胸を撫で下ろした。和らいだ俺の雰囲気に幹事の男がまあまあ、楽しもうぜ、と肩を組んできたので容赦なくその手の甲を抓ってやる。
「いてぇ!いてえって倉持!」
「二度はねえからな。この事で今後、俺の恋人が泣いたらお前は社会的に殺してやる」
「でも倉持!お前、全然恋人っぽいイベントに参加してねーだろ?」
「仕方ねえだろ、アイツ、寮暮らしで生活リズムも違ぇし、遠征も多いし、そんなんわかってんだよ煩えな。一通り高校でそう言うイベントは済ませたから、あとは俺が大学卒業して結婚してからでもういいんだよ」
最初のビール以外、ずっと烏龍茶を飲んでいる。弱くないことは誕生日を迎えてすぐに亮さんや増子さんたちと俺の部屋で飲んで判明したが、万が一があっても困るので万全を期す。もうこの男は信用しないと心に決めた。
「重種様がいると女の子のレベルと集まりが違うんだよ〜」
「そもそも階級に目が眩むような女、動物にしか見えねえ。こーゆーのは真田にしとけ」
「あいつはダメだ。女の子全員アイツに持ってかれる。つーか、女子会のノリに持ち込まれて合コンじゃなくなる」
「俺でもあんまりかわんねえだろ。お前らの話聞く気ねーだろあの子たち」
薬師の真田は大学でチームメイトになった。重種だけど偉ぶったところのない、男女分け隔てなく優しいイケメンだ。初日に顔見知りだからと馴れ馴れしく話しかけられた時は正直ビビったが、相変わらず野球をしてないと爽やかないい奴で、学部も同じで授業もよく一緒になった。
俺が寮ではなく一人暮らしをしていると知ると自炊の楽しさを教え、簡単なレシピまでくれた。御幸と付き合っていることも知っているから無駄に詮索してこないのも気楽でいい。ことあるごとにオフに御幸に会わせろと言うところが少しだけめんどくさい。
うわ辛辣、モテねえぞ、と別のチームメイトが言う。はっ、と鼻で笑えば俺以外の男三人に睨まれるが屁でもない。女子たちはおそらく化粧室で会議中だろう。中々帰ってこないところを見ると紛糾しているのかもしれない。
「いいんだよ、モテなくて。俺はもう一生の相手がいるから」
「そー言えば倉持の彼女ってどんな子なのか聞いた事ねえんだけど。実在してんの?」
「彼女は実在してねえな。いるのは可愛い彼氏だし」
「「「……え?!」」」