【既刊】運命は花の香り大学生×プロ編【小説】 - 1/3

2021.11.28発行
A5/44P
各話冒頭サンプルです

発情期が止まらない

初めて、倉持に抱かれて腰の抜けてしまった俺に、倉持はとても甲斐甲斐しかった。
「痛くはねえんだな?」
「うん。痛いとこはない、んだけ、ど……」
「……何だよ」
心配そうに俺の顔を覗き込む倉持に、きゅん、とする。まだセットされていない前髪が下りていて可愛いのに、真剣な顔が、俺の不調を一つも取り落とさないようにと見てくれている目が、かっこよくてときめいてしまう。
「……倉持が五割増しぐらいかっこよく見える……」
恥ずかしくなってしまって小さなテーブルに額をつけて突っ伏すと、ヒャハハ、と楽しそうに倉持が笑った。
「俺はもうずっとお前が可愛くて仕方ねぇよ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。大好きな野球馬鹿の倉持の手だ。気持ち良くて愛おしくて、きゅん、と昨晩初めて知った胎の中の倉持の届く一番奥が疼いた。
あんなにしてもらったばかりで、現に俺は腰が抜けるほどしたのに、まだ足りないと疼く身体が恥ずかしい。発情期だってわかっているけど今まではこんなにしたくなった事なんてなかった。どうしたらいいかわからなくて、ぎゅう、と倉持の匂いのする借りた服の上から下腹部を抑えているとどうした?と倉持の心配そうな声が聞こえた。
何でもないと伝えたくて首を振る。いいから言え、と少し怒った声がして恐る恐る顔を上げて倉持を見ると、声に反して優しく笑っていた。やめて、だめ、そんな優しい目で見られたら、また奥が切なく疼いてしまう。
倉持の作ってくれた朝ごはんを二人で食べて、少し休憩したら二人で買い物に行こうって言ってくれたのに、ちょっとした距離だけどデートみたいだなと思ってしまって嬉しいのに、またセックスがしたくなってしまう。
「くらもち、俺の身体、変」
「やっぱどっか痛めてたのか?」
「違くて……お前見てると、奥が疼いて、……セックスしたくなる……」
数度、倉持が瞬きをした。恥ずかしくなって目線を外すと倉持の腕が伸びてきて抱きしめられた。倉持の胸に抱き込まれると、トクトクと脈打つ心臓の音がした。
「……俺だって、今すぐもう一回お前を抱きたい」
でもあんなにしたからダメだろ、といつになく静かに笑う声がする。大切にしたいのだと、倉持は何度も言う。俺だってセックスだけじゃなくて、二人で色んなことがしたいと思うし、倉持もそう思ってくれたら、嬉しい。
高校の三年間、野球漬けでデートみたいな外出にも降谷が付いてきたり、ただの消耗品の買い出しになってしまったり、恋人っぽいことなんてあまりしてこなかった。バレンタインも、コンビニで買った適当なチョコをあげたぐらいだし、お互いの誕生日も、おめでとうと言う言葉と、同じ部屋の先輩や後輩たちが気を遣って二人きりにしてくれたりとかそのぐらいだった。クリスマスは地獄の合宿の最中で何かする余裕はなかった。だから少しでも、これから先、色んなことを倉持と経験してみたいと思う。